「そうだなあ、やっぱり皆で久しぶりにピクニックに行きたいね」 「あ、ピクニック、賛成ですお師匠さま!」 テーブルに向かい合わせるようにして座り、方や紅茶を、方やホットミルクを手にして、魔法 使いとその弟子は、なにやら楽しそうに話をしている。 二人の間には一冊の分厚い本が置かれていることから察するに、恐らく最初は魔法の講義をし ていたのだろう。 しかし、何処かで何かの弾みに話が魔法講義、と言う主題から逸れてしまったようで、二人の 会話にはそれらしい雰囲気もない。 「春になると、一面にピンク色の花が咲く場所があるんだ。そこに行くのもいいかもしれないね」 「ソフィー、きっと喜びますよ! ね、ヒン!」 魔法のお勉強時間は、すでにすっかりそのピクニック計画を立てる会議になってしまっていた が、ああでもない、こうでもないと話し合う年の離れた師弟はとても楽しそうだ。 「あら、なんだか楽しそうね。なんのお話しをしているの?」 城の扉が開き、大きな籠を持って現われたのは花畑から戻って来たソフィーだった。 仲良くおしゃべりに興じているハウルとマルクルに、もう今日はお勉強どころじゃあないみた いね、と苦笑交じりに声をかける。 「ソフィー、お帰り」 「春になったらどうしようか、って話してたんだ! ソフィー、春になったらソフィーはどうし たい?」 「春になったら? そうねえ」 うーん、と少し考えるように頬に手を当てて、何を思いついたのかニッコリとソフィーは微笑 んだ 「暖かくなったら、お城を隅々まで掃除したいわ! 冬の間もうずっと締め切りになってる場所 もあるし、埃が溜まってるし」 あそこもあっちも………などと次々と掃除をしたい場所を上げていくソフィーの顔は真剣だ。 「マルクルやハウルは?」 そして訊ねてきた彼女に、思い描く春の色をした楽しい予定を見事に打ち砕かれた男二人に言 葉はなく。 「………それって、夢がないよソフィー」 ただそう呟いて、がっくりと暖炉の前で肩を落とす。 わけも分からず慌てるソフィーに、ケラケラとカルシファーの炎が少しだけ強まったのだった。 -end-
ソフィーって現実に生きてそう(笑)ハウルは夢に生きてそう(笑) 2005年2月21日作成。 back