大丈夫ですか?
 そう聞かれて、直は咄嗟に顔を上げていた。
 しかし、声をかけてきた相手が誰であるかは分からない。
「あの………?」
 確かに聞き覚えのある声なのだが。
 音の記憶だけでは、正しい判断を下すことができなかった。
「どうそ」
「あ、ありがとう、ございます」
 手を貸されて促されるままに直は立ち上がり、軽く服を叩いてからペコリ、と頭を下げ
た。
 誰であれ、転んだ自分に手を貸してくれたのだ。
 すると相手はいいえ、と短く応じてから、少しの間を開けて言葉を続けた。
「お身体の具合は、もう宜しいようですね」
「え? あ、はい」
 どうやら、相手は自分が少し前まで入院していたことを知っているらしい。
 直はますます首を傾げてしまった。
 誰なんだろうか。
 確かに知っている、筈なのに。
「私が誰か、お分かりにならないようですね」
「あ、あの」
 いきなり核心を衝かれて、直は申し訳なさに言葉に詰まってしまった。
「ごめんなさい、分かりません。すみません」
 申し訳なくて頭を垂れてしまった直に、いいえ、とまた相手は静かに応じる。
「お気になさることはありません。無理のないことです」
「あの、それで、すみません、どなたなんでしょうか?」
 このままでは会話をするのにも困る、と直は訊ねた。
 すると相手の気配がほんの少し変わったのが分かる。
「LGT事務局、と言えば、お分かりですか?」
「え」
 直の脳裏に、一瞬にして様々な思い出が走り抜けていった。
 LGT事務局、即ち。
「………ライアー………ゲームの………」
「………」
 無言の肯定に、直の言葉は途切れる。
 もう二年近く前の話だが、いまだに鮮明に思い出せる。
 たった数ヶ月間の、けれど今まで生きてきた時間の中で一番濃密な日々だった。
「あなたは、もしかして………」
「思い出して戴けたようですね」
「………私に、なんの御用ですか?」
 直の身体には無意識の緊張が走る。
 目の前に立つ相手は、あのゲームの、直にとってはある意味で象徴だ。
 恐怖と困惑の中に陥ってしまった直に、すっと何かが差し出された。
「?」
「私があなたの前に現れる理由は、一つしかないと思われますが」
「え………」
「今日は、招待状をお持ちいたしました」
「………招待、状………」
「どうぞ。あなたにも読めるようにしてあります」
 促されるままに、震える手をなんとか動かして、直は招待状なるものを受け取っていた。
 記憶にあるものと、変わらない感触の封筒。
「これ………」
「ライアーゲーム、四回戦が開催されます」
「!!」
 予想通りの言葉に、直は完全に固まってしまう。
 それを無視するように、言葉は続いた。
「カンザキナオ様、改めて、あなたをライアーゲーム三回戦の勝者として、四回戦にご招待
します。もちろん、参加の御意志がない場合は、ドロップアウトして戴いても結構ですが、
その場合には事前にお知らせしてありましたように、事務局よりお貸ししてありましたマネ
ーの返還をして戴く必要があります」
 それを直に返すことなど不可能であることを、承知の上での告知だ。
 直には何も言い返すことが出来ない。
「あれから、もう」
「はい、二年になります。それがなにか?」
「………いまさら、どうして………」
「プレイヤーには関係のないことです。そもそも、ゲームがどれくらいの時間をかけて行わ
れるものであるかについては、特に事前の明記はなかったと思われますが」
 もう直は言葉を発することが出来なかった。
 もしも目の前に今立っている人の、瞳の奥を覗き見ることが出来たのなら、何かをそこに
見つけることは出来たのだろうか。
 けれど、直の焦点の合わない瞳には何もを捕らえる事も叶わない。
 そして小刻みに震えていた手から、白い杖カラン、と音を立てて地面に落ちたことにも気
付けずにその場に、立ち尽くすだけだった。







直ちゃんの会話の相手は、あの方です。 美人さん、いいですよねーv そして直ちゃんは、ちょっと身体的に色々………な状態です。 先に書いた、あの事故が原因です。はい。 ライアーゲーム四回戦って、映画とかで使われちゃったりすると書けなくなるので (あると前提なのか!) そうなる前にこれは形にするならした方がいいのかなあと思ったり。 でも、長いんですよ。しかも、秋直らしい直接的にラブラブするシーンも 少なくなりそうな予感ヒシヒシ。 あ、ヨコヤンも出てきますよ。3回戦の面子は全員揃います。 ヨコヤンやキノコさんが普通にいい人になっているかどうか、それがまた 微妙に難しいところなんですよね。 物語的には、直ちゃんに感化されて浄化されていい人組みになっている、べきなのでしょうが 現実的に考えると、それってかなり無理っぽいですし。 と、悩んだんですが、ここはご都合主義に走らせていただこうかなーなんて。(おいおい)