驚いた。
 こんなときなのに。
 本当に驚いてしまった。
 だってもっと、ずっと怖くて仕方のないものだと思ってた。
 きっと泣き出して大騒ぎしてみっともなく取り乱すんじゃないかって。
 なのに、全然。
 こんなものなんだろうか、自分が自分で不思議になる。
 馬鹿みたいにグルグル回るそれは、よく話に聞いていたような、ものじゃなくて。
 子供の頃の自分とか、今日まで生きてきた日々の中で積み重ねてきたものとか。
 全然そんなじゃなかった。
 ただ一つだけ、ただそれだけが、頭の中を全部埋め尽くしていた。
 ああ、そうか、怖くないけど、痛くもないけど。
 ただ悲しい。
 もう二度と会えないんだなあ、ってそう思ったら、心臓が握り潰されるくらいに苦しくなってし
まった。
 馬鹿みたいだな、と思う。
 だって、それと同じくらいのことを、今私はこの身に受けているはずなのに。
 だけともっともっと馬鹿だと思うのは。
 会えなくなるなんて。
 そんなの今さらのことなのに。
 だってあの人はもう、私の手の届く所にはいないんだもの。
 どこか遠くへ行ってしまったんだもの。
 きっと私のことなんて、忘れちゃったんだろうなあ。
 覚えてても、そんな馬鹿な子もいたっけな、ぐらいにしか覚えてないよね。
 うん、そうですね、私、馬鹿だと思います。
 だってこんな時に、こんな時にだって。
 あなたに会いたかった。
 最期くらい夢見てもいいですか。
 貴方の笑ってくれた顔が、すごくすごく好きでした。
 ああだけど、もう何も見えない。
 遠い遠い場所、それは何処なんだろう。
 此処じゃない何処かへもう行かなくちゃいけないんだなあって、ぼんやりと。
 白い、真っ白い世界で、貴方だけがいる。
 他には何にもない。
 私は、随分と酷い子で、我儘で、情の薄い子だったんだと、今さら知る。
 だけど、だけど、だけど。
 仕方がないんだと、思ってしまう。
 大事な友達もいました、お父さんのことも大好きでした。
 でも、それ以上に。
 貴方のことが好きです。
 あれからもう、随分と月日も流れたのに。
 変わらなかったこの気持ちは、このまま変わらずに終わることになる。
 そして誰にも届かないまま、なかったことになって消えてしまうんだろうと思うと、それは少し
だけ寂しいかな、と思った。
 見上げた空は、あの日に見た空に良く似ているような気がする。
 真っ青で雲ひとつなくて、怖いくらい綺麗で。
 吸い込まれちゃいそうです。
 あの日もそんなこと思ったような気がします。
 だけど、今の私にそれは無理かな、と思う。
 だってこんなに汚れちゃってるから。
 赤、紅、朱。
 そのどれが一番似合いの言葉なのか、分からないけれど。
 不思議なものですね、それとも、こんなものなんでしょうか。
 貴方なら教えてくれたのかもしれないけれど。
 それを訊ねることはできそうもないので、それは永遠に謎のまま。
 ああ、それにしたって。
 驚いた。
 本当に驚いてしまった。
 泣き虫だって言われてたのに。
 すぐに泣き出すって。そう言われていたのに。
 驚いてしまって、もう、本当に。
 だって全然、私、怖くもないなんて。
 こんなことに、なっているのに。


 ただ、貴方ともう二度と、会うことが出来ない。
 そのチャンスを探す事も出来ない。
 それだけがとても、悲しい。
 ただ、それだけ。



 鳴り響く、緊急車輌のサイレン。
 点滅して乱暴な光を放つ、真っ赤なランプ。
 それをまるで遠い遠い世界の出来事のように思いながら。
 自らの作った紅色の海の中で、静かに。
 その瞼は最期の光を閉ざすように、伏せて、閉じられたのだった







すみません、のっけからこれかい、な感じですね。 最初に、これは死にネタではありません。 ライアーで死にネタをやるつもりはありませんので! それやると、酷いことになりそうなので、自粛自粛(笑) ゲーム終了後、およそ2〜3年たって、直ちゃんが二十歳を越えた辺りですね。 こっから色々捻ると、恐ろしく長い話になりそうです。 どれくらいになるかと想像して………多分、自分の過去のやらかし具合から 想像するに300頁くらの文庫ですね。ありえないから!(生温笑)