■おひさま
きみは僕のお日様 ぽかぽかの優しい陽だまり。
いつも傍にいるだけで 馬鹿みたいに幸せで。
俺のちっぽけな人生を照らしてくれる きみは優しいおひさま。
どうか俺をこの先も ずっと暖めてくれることを。
「いいお天気ですね〜」
嬉しそうにそう言って、直が向けてくる笑顔を受けて秋山はそうだな、とだけ返した。
春先の柔らかい陽射しが降りてくる道を、二人はのんびりと歩く。
遠くで電車の走る音が聞こえてくる。
抜けるような青が、目に痛い。
「………は、ふ〜………」
「眠いの?」
「あ、すみません」
「いや、別にいいけど、眠かったなら寝てればよかったのに。買い物なら俺一人でも」
「平気です、全然!」
せっかくのお出かけなんですから、と意気込む直に、秋山はくす、とそうとは知れないくらいの
小さな笑みを浮かべた。
「あ、ここ、こんなところに公園があったんですね」
通っていきませんか、と誘う直の言葉に、秋山は別に反対する理由もない。
そういうわけで、二人は緑のまぶしい公園に足を踏み入れた。
「………ふ」
「六回目」
「え?」
いきなり秋山が一言呟いたそれに、直はきょとんと丸くした目を秋山に向ける。
「公園に入ってから、欠伸した数」
「あ、あの、す、すみません!」
「いや、どっちかって言えば、俺がごめんね、って言うべきなんだろうけど」
「はい?」
「半分は俺のせいだから」
「………はあ」
出会った頃からそうだったが、いまだに直は秋山の言動によく振り回された。
もっとも、秋山に言わせれば振り回しているのはむしろ直の方で、その天然ぶりと鈍感ぶりはい
っそのこと感心するしかないんだ、といったところか。
「あ、見てください、秋山さん、猫!」
指差す方へ視線を投げれば、木立の影をゆっくりと歩いていく茶虎の猫がいる。
長い尻尾をゆるりと動かして、独特のしなやかな動きに直はふふ、と嬉しそうに笑った。
「猫とか犬とか、好きだよな」
「はい。小さい頃は飼いたかったんですけど、ちょっとそれは無理だったんで、友達の家の犬や猫
と遊ばせて貰ってました。秋山さんは、好きですか?」
「猫とか犬?」
「はい」
「………まあ、嫌いじゃないかな」
「じゃあ、どっちの方が………」
そこまで言いかけて、直はパッと両手で口を押さえる。
欠伸がまた出てしまったのだろう。
く、とそんな直に笑いを落とし、秋山は今し方猫が歩いていった木立を示した。
「少し、休んでいくか?」
「えと、でも」
「気持ち良さそうだし、買い物だって急がないといけないもんでもないだろ」
「あ、はい! そうですね!」
じゃあ、ちょっとだけ、と笑う直と連れ立って、秋山は石が敷き詰められた道を逸れて、木立の
中でも大きく葉を広く繁らせた木蔭に入り、身体を並べてその樹に身を預ける。
吹き抜ける風が頬を撫ぜていくのが、とても心地いい。
「なーんか、不思議な感じですね」
「何が?」
「こうやって、秋山さんと一緒に、こんなところで過ごせるなんて」
ゲームを勝ち抜くために必死になっていたあの頃には、とても想像出来ない未来。
「なんだか、不思議で………嬉しいんですけど、時々不安になります」
それが時々信じられなくなり、これが夢だったらどうしよう、と思ってしまったら止まらなくな
り、そんなときに直は秋山の傍に一日中くっついて回ってしまうことがあった。
たとえば今日のように、眠いのを必死に我慢してまで、買い物に付き合おうとするように。
「そうだな。俺も、想像もしてなかったよ。こんな風に自分が過ごす日があるなんてな」
復讐、それだけで生きていた日々の果ては奈落の底。
他人事のように、そんな風に思っていた。
「………おまえの、おかげだよ」
そう言って、遠くでサッカーボールを蹴っている子供たちに向けていた視線を、すぐ隣で同じよ
うに芝生に腰を下ろして樹にもたれかかっている直に向けたところで、秋山は目を丸くした。
なんとそこには、すやすやと気持ち良さそうに眠る姿がある。
「まあ、そうだろうなあ」
あれだけ欠伸をしていたのだから。
それに元々秋山はこれを狙って、この場所で休むことを提案したのだ。
見事に狙い通りに成功したということになるのだろう。
「おやすみ」
こつん、軽く額を指先で叩いた途端に、ぐらりと傾いた直の身体がそのまま秋山の肩にもたれて
しまった。
そんなつもりではなかったのだけれども。
「ま、いいけどね」
嘯いて、直の頭を肩に乗せたまま、秋山は樹にもたれて空を見上げた。
眩い光が枝を伸ばした木立の葉に細かく砕かれて降り注いでくる。
直のお昼寝に暫くはオツキアイ。
想像もしなかった、この幸せな時間。
おひさまと一緒に過ごせる、それは。
とても大切な。
大切な日々。
-end-
ええと、ドラマがあれなので、(どれだよ)明るい感じで。
またしても、谷山浩子氏からインスパイア(都合のいい言葉ですよねえ)
タイトルもお借りしてますし、最初の4行は、歌詞からちょこっと引用させてもらってます。
君は僕のおひさま、という歌詞に、秋山氏にしてみれば、直ちゃんはおひさまだろうて、
と、思ったりもしたわけでして。