■La scala di Paradiso 〜エレーン〜
あまり明るい話ではありません。あくまでも秋直で、それは絶対。出来上がってます。
バットエンドでもありません。が、ある意味で、自戒していたものを解禁しちゃっています。
それでもいいよ、という方はスクロールを〜。
夜に輝く金の髪。
妖艶で淫猥なものを連想させる、真紅の唇。
濡れたように煙る深い灰色がかった、気だるげな印象を与える蒼い瞳。
ほっそりとした面の頬のラインに浮かんだ、刹那の快楽を連想させる僅かの微笑。
ネオンのスポットライトを浴びて立つ、その女は娼婦と言う名前を持った、ひどく闇の匂いが
する異邦人だった。
「おまえ、また騙されてるんじゃないのか?」
秋山の呆れ返った声は直にとって、あまり嬉しくないが聞き慣れたものになりつつある。
けれど、言われっぱなしではないぞ、と最近はしっかり反論するようになっていた。
もちろん、自分に全面的に非があるときは、素直にそれを認めたけれど。
「違いますよ! だって、本当に困ってたんです、その人」
「本当って………」
やれやれ、と秋山は真剣な顔でそう言い切る直に対して殆ど習慣になってしまっている溜息を
吐いてから視線を戻した。
「だいたい、どうしてそんな女と知り合った」
「ええと、この前、合コンに」
「行ったのか」
鋭い、一声。
この切り替えしに、あ、と直は自分の口を咄嗟に両手で塞いだ。
しかし、言ってしまった言葉はいまさら取り消せない。
直は項垂れて上目遣いに秋山を見上げながら、行きました、と正直に告白した。
「あ、あの、友達に助けてって頼まれて、それで」
「行ってみたら合コンだったと」
「うう………すみません、秋山さん」
すっかり項垂れてしまっている直に、秋山もそれ以上は言うことも出来ない。
気をつけろと何度言ったところで、この子には無駄なんだろうか、とそんなことをぼんやりと
思いながら、今はそれを話題にしてる場合じゃないな、と秋山はそれは後でじっくりと話すこと
にして、逸れかけた起動を正す。
「で? それで?」
「あの、友達が酔っちゃってそれを介抱しようと思ってお店の外に連れて行ったら、男の人が二
人一緒に来てくれて、友達が辛そうだから、店の人に頼んで部屋を貸してもらって横にしてあげ
た方がいいよって」
「言われて、行った、なんて言わないよな?」
「行きません! 秋山さんに気をつけろって言われてましたから!」
ぶんぶん、と直は勢い良く首を横に振った。
よく知りもしない男が、他人の目のない場所へ行こうといかなる理由がそこにあろうとも誘い
をかけてきたら、全力で拒否してとにかくその場から逃げろ、と。
それはもう、説教どころじゃない勢いで言われていたために、それは直も馬鹿正直についてい
くなんてことはしなかったらしい。
とりあえず、自分の教育は多少なり効果があったのか、とほっと胸を撫で下ろしたものの、話
の先はまだあるんだったな、と視線を戻す。
「でもですね、それでもすごくしつこくて、困っちゃったんです。友達は意識がないし」
それはとてつもなくやばい状況だろう、と秋山は本気ですでに終わったことながらもイライラ
とするのを止められない。
「気づいたら、腕とか引っ張られちゃって、すごい力だったんですよ。私、困ります、って言っ
たんですけど離してもらえなくて」
「で?」
「秋山さん、顔が怖いです」
「地顔だ。それより、先」
「あ。はい。あの、それで、店の中に戻っちゃって、そのまま奥の方へ連れて行かれそうになっ
たときにですね、その人が」
「さっき言ってた、外国人の女か」
「はい」
すごく綺麗なブロンドで、蒼い目で、肌なんてもうお人形さんみたいに白くって、信じられな
いくらい美人だったんですよ、と直はまるで自分ことを自慢するかのように、語る。
「友達を抱えて、私の手を掴んでいた男の人の前に立って、英語、なのかな? で、何か言った
んです。男の人も良く分かってなかったみたいなんですけど、そうしたら、その人、男の人たち
に何か、耳打ちしたんです」
そうしたら、いきなり男の人たち表情変えて、私たちのこと放って、どこかに行っちゃったん
ですよ、と直は不思議そうに首を傾げながら言った。
「で、おまえと友達は助かったってわけか」
「はい! その人、友達のことを診てくれて、すぐに救急車呼んでくれて、その子、急性アルコ
ール中毒だったみたいで、それで助かったんです」
助かった、の意味が違うのだが、この際それついては秋山は指摘することをやめておく。
とにかく夜の女と直という、まったく接点がなさそうな二人が知り合った理由は、ようやく秋
山の知るところとなったわけだが。
「じゃあ、その5万ってのは、救急車を呼んでもらった代金として払ったのか?」
「違いますよ! 救急車って、呼ぶのにお金かからないじゃないですか」
「手間賃ってことも考えられるだろ」
「え?」
「いやいい。じゃあ、どうして渡した」
今の話の流れでは、その外人の女は確かに直の窮地を救ってくれたのかもしれないが、それで
五万を要求したのだとしたら、始めからその男たちと仕組んでいた、とも考えられなくはない。
秋山のそんな考えなど知らない直は、ええとですね、と説明するべく口を開いた。
「その日に、渡したんじゃないんです」
「え?」
「翌日に、お礼に行ったんです。でも、お店がまだ開いてなくて、でも偶然、昨日のやりとりを
見ていた従業員の方がいて、私のこと覚えていてくれて、昨日のお礼がしたいんです、って言っ
たら、女の人のお住まい教えてもらえて、それで」
「行ってみたと」
「はい。そうしたら」
アパートの前で、なんだか強面な人と言い争ってる人がいて、それが会いに行こうと思ってい
た女の人で。
「借金取りか何かだったのか?」
「分かりません。そうだったのかも。男の人は日本人で、なんか分からないんですけど、いいか
ら金寄越せ、とかなんとか言ってて」
ああ、と秋山はその説明に納得してしまった。
その男は借金取りではない。
おそらく、その女の情夫かヒモか、つまるところ女から金を巻き上げてそれで好き勝手してい
る最低な部類に入る男なんだろうと。
「それで、おまえが代わりに五万払ったと」
「だってその男の人、女の人の顔、殴ったんですよ!」
いきなり、目の前で平手ではなく拳で殴りつけられた女がドアの前から吹っ飛んで地面に叩き
つけられる姿を目の当たりにして、直が黙っていられるわけがない。
女の人を庇うように男の前に立ちはだかり、やめてください、と叫ぶ姿が秋山の脳裏に浮かん
でいた。
あの、ライアーゲームの二回戦で、エトウを庇ったように。
「男の人、金、金、ってそればっかり言うんです。女の人のこと足で蹴ろうとするし! だから
私、やめてください、ってお願いしたんですけど、やめてくれなくて」
「五万、渡した、と」
「あのままだと、あの人、殺されちゃってたかもしないんですよ!」
「かもな」
「そんなの、放っておけません」
直らしいとは、思う。
たった一度会っただけの相手を、身を挺して守り金まで出して。
だが、何事もなくてよかったけれど、下手をすれば直もその男の暴力の対象にされていたかも
しれないし、あるいはすでに次のカモとして狙われていないともしれないことを思えば、秋山と
しては直の行為を彼女らしい、で軽く流すことは出来なかった。
けれど、そういう場面に遭遇しても、けして関わるな、などと言ったところで、やはり直は納
得もしないし、仮に今は頷いても実際に目にしたら考える前に行動しているに違いない。
(俺が気をつけるしかない、か)
様々な思いを込めて、秋山は溜息を吐いた。
「お金渡したら、男の人やっと帰ってくれて」
「で?」
「女の人、倒れたままだったから起き上がるの助けようと思ったんですけど」
手を、振り払われちゃって。
直は困ったような顔で、秋山を見た。
「私、何か悪いことしちゃったんでしょうか? 何か、英語で言われて、でも私分からなくて。
暫くしたら、女の人、これを私に差し出して、『ヨル、オトコノ ヒト ト イッショ ニ』
って片言の日本語でそう言ったんです。それだけ言って、部屋に入ってしまって」
「おまえは仕方なく帰ってきた、と」
「はい。私、何がいけなかったんでしょう?」
直は、どうしてその女性から拒絶のような態度を取られたのか、それが理解できなくて困って
いるのだろう。
『秋山さん、今夜、私と一緒にこのお店に行ってくれませんか?』
いきなりそんなことを言って寄越されたときには、何がなんだかさっぱり分からなかった秋山
だったが、彼女の言動の理由の全容が、ここにきてやっと見えた。
その上で、秋山は彼女の質問に対しての答を探す。
「多分、これは俺の推測だけど」
「はい」
「プライドの問題、なんじゃないのか?」
「え?」
言われていることの意味が分からないのだろう。
直は途惑いをあらわにした顔で、秋山を見つめる。
そうだろうな、と自分で言った言葉だったが、秋山は思った。
多分、彼女には分からないだろう、と。
底辺で生きる人間にも、それなりにプライドはあるものだ。
いや、底辺で生きるからこそ、自分を守る最後の砦としてプライドを掲げていなくてはならな
いのかもしれないが。
それさえも捨て去ったのなら、もっと楽に生きれるかもしれないと分かっていても。
「見ず知らずのおまえに、いきなり五万もの金を、言ってみれば恵んでもらった、ってことにな
るわけだろ」
「私、そんなつもりじゃ」
「うん、それは分かってる。でもな、それを相手がどう受け止めるのか、は別の話だ。その女に
とって、おまえが取った行動は、そう見えたんだ、おそらく、な」
「そんな………じゃあ、あの、怒ってたのは、そういうことだったんですね」
「そのときの相手の様子を俺は直接見てないから、怒っていたのか、それとも別のものがあった
のかそれは分からないけどな」
秋山の言葉に、直はしゅん、と項垂れてしまった。
親切の押し付け、あるいは、金を持っているものの奢り、そんな風に思われていたのかと思う
と、悲しくなってくる。
そんなつもりなんてなかった、本当にただ、あの人を放っておけなかった。
それだけだったのに。
すっかり落ち込んでしまっている直に、秋山はやれやれ、と思いながらぽん、とその頭を軽く
叩いてやった。
すると、その顔が上げられて今にも泣き出しそうな表情のまま秋山の身体にぶつかるようにし
て抱きついてくる。
小さく嗚咽を殺すように小さく震える肩に、背中と腰に回した腕で抱き寄せて今度は背中をぽ
んぽんと、叩いてやった。
「おまえは善意でやったことなんだ。泣くなよ」
「だって………私、あの人に凄く不愉快な気持ちさせちゃったってことですよね?」
「それはどうかな」
「え?」
どういう意味ですか、と顔を上げて来た直に、秋山はうん、と応える。
「その女、おまえに、男と一緒に来い、そう言ったんだろ? ここへ」
「た、多分そうだと思います」
身体を離し、秋山が手にしていた名刺を直も覗き込んだ。
「ここ、おまえが合コンで行った店?」
「いいえ、違いますけど」
「だよな。ここはどう見たって」
どう見たって? と首を傾げる直に、秋山はいや、とだけ言うに止めた。
店の住所や名前、そしてそこに描かれた見るからに何かを暗示させるような柄から、なんとな
く秋山は指定された店がどんな場所か、想像できる。
男と一緒に来い、と女が言ったのは、夜という時間帯にこんな場所に女一人でうろうろするこ
との危険を回避することと同時に、この店に出向いても女の直一人では相手にされないだろうと、
そう判断したからなのだろうと。
「おまえ、行くつもりか?」
「はい」
「だよな」
だから、一緒に行ってくれないか、とそう自分に頼んできたのだと、秋山は溜息を一つ。
本当はこれ以上関わって欲しくないのだが。
「会ってどうするつもりだ」
「………分からないですけど、でも、行かないといけない気がして。あの人が最後にこれを私に
渡してくれたとき、すごく、悲しそうな目、してたんです」
直の、自分と相対した人間に対して発揮する勘の鋭さは、殆ど本能だろう、と秋山は思うこと
があった。
誰しもがけして外には出さない内側に潜んだ部分を、彼女はそれを知らずに、認識することも
ないままで見抜いている。
だが、その女がどんな女か秋山は知らない。
出来るのなら関わっては欲しくないけれど。
「分かった。一緒に行ってやるよ。でもその女に会うだけだ。それ以上のことをしようと思うな
よ」
「はい! ありがとうございます!」
秋山が同行してくれることを了承してくれたので、直は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
よかった、と小さく呟いて胸に手を当てる。
本当はもし秋山が嫌だと言ったのなら、一人でも行くつもりだったのだが、やはり少々怖い気
持ちは拭い去れなかったのだ。
夜の繁華街は直にはまったく無縁の世界で、この前の合コンで行ったネオン街も本当に目がチ
カチカして大変だった。
あんな場所に一人で、と思うとどうしても二の足を踏む気持ちがあったけれども。
(よかった、秋山さんが一緒に来てくれるなら安心よね!)
何があっても大丈夫、と無意識に声に出して全部言ってしまっていることに、気づいてはいな
いのだろう。
間近に彼女を抱えているだけに、全部丸聞こえの秋山としては心中複雑だった。
そこまで信頼されて頼られているのは嬉しいことだったが、あまり無茶はしないでくれないだ
ろうか、とこちらは胸の内で呟く。
(それにしても、この店は………そういうこと、なんだろうな)
金髪で蒼い目の美人、直の言葉を繰り返しながら、ちらっと、改めて眺めた名刺に秋山は自分
の想像が間違いではないことを確信してしまった。
そして彼は直が会いたいと思っている相手の名前を、鋭い目でそこに射抜く。
美しい字体で書かれた、Elaineと、いう名前を。
夜の街は、やはり直にはまったく似つかわしくなかった。
きらきらと人工の光で浮かび上がった不夜城は、まるで彼女の方を異邦人に思わせる。
「す、凄いですね」
「まあ、こんなもんだろ」
見るからにまともな暮らし方をしているとは思われない、内ポケットにとんでもないものを潜
ませていそうな連中や、そんな男にしなだれかかるような女の群れが、さながら艶やかな模造花
を彷彿とさせ、ネオンに輝く通りを行きかっている様子にすっかり直は気圧されていた。
それを見て、秋山は仕方ないな、といった表情を作り笑ってみせる。
「昼間に来ると、けっこう笑えるんだ、こういうところは」
「どうしてですか?」
「今は綺麗だろう? でもな、これは夜の闇とこのネオンが見せたまやかしで、太陽の下だと、
随分と薄汚れていてまるきり違う顔を見せるからな」
「そうなんですか!」
でも確かに暗いから、良く分からないですよね、などとあっちこっちへきょろきょろと視線を
巡らせては、うわ、とかへえーとか声を上げる直は、はっきり言って場の雰囲気を完全に壊して
いたし浮きまくってもいただろう。
だが、秋山はそれがかえって面白いのか、咎めることもせず好きにさせて、向かうべき場所を
目指して足を動かす。
直はそんな秋山の腕をがっしりと両腕で抱え込むようにして、ぴったりと身体をくっつけて歩
いていた。
絶対に離すもんか、と言わんばかりのその力はなかなか凄くて、秋山としては歩き難いことこ
の上なかったが、これもまた文句も言わずに好きにさせておいた。
おそらく、直にはこんな場所はあまりにも自分が知っている世界とは違い過ぎて、無意識に恐
怖しているのだろう、と秋山には分かっていたから腕を離せ、などと言ってショックを与えるこ
とはしない。
「お店、どこでしょう」
「住所からすると、この辺りだが………ああ、ここだ」
見上げれば、そこには毒々しいまでに光で飾り立てられた文字があった。
『La scala di Paradiso』
「なんて名前なんでしょう?」
「天国への階段」
「あ、そうなんだ! 英語ですか? ちょっと違う気がするんですけど」
「英語じゃない。イタリア語だな」
「秋山さん、イタリア語も読めるんですか!?」
英語やドイツ語に堪能なことは知っていたが、まさかイタリア語までとは。
直は改めて秋山さんって凄いなあ、と本気で感心し、そして嬉しくなってしまった。
「なに笑ってんだ。俺より、おまえの方が今はそういうの、必要だろ。特に英語」
「う………苦手なんですよね………」
項垂れてしまった直の頭をこつん、と軽く秋山は叩いた。
「試験、ちゃんと合格点取れよ」
「大丈夫です! それは絶対に!」
秋山さんに教えてもらってるんですから! と胸を張る直に、秋山も苦笑するしかない。
二人がそんな会話をしている間にも、その店には男連れや、一人だけの客が吸い込まれるよ
うにして入っていく。
常連客なのか、入り口に立っている男は軽く会釈をするとやってくる客にいかにもな笑顔を
向けては扉を開いて招き入れている。
「な、なんかすごく、場違いですね、私たち」
「まあ、確かに」
なにしろ、秋山はいつものラフなシャツにジーンズで、直はモスグリーンのワンピース。
ここが昼間の商店街だと言うのなら良く馴染んだだろうが、この夜の世界では完全に違和感
だらけの存在だったろう。
しかし、生憎と秋山はこうした場に似合いの服など持っていなかったし、直にそれらしい格
好をさせるのも逆に危険だろうと判断した結果がこれだった。
やや周囲から痛い視線を向けられているのは頂けなかったが、それよりも問題を事前に遠ざ
けておく方を優先したのだ。
「俺たちは客じゃないんだから、いいだろ別に」
「そ、そうですよね」
なんとか勇気を振り絞って、直はよし、と両手で拳を握ってみせる。
が、いざ行かん、と一歩踏み出そうとしたところで、直の足はぴたりと止まっていた。
「で、でも、どうしましょう。声、かけていいんでしょうか」
「あの名刺、持ってるか?」
「あ、はい」
バックを探って取り出したそれを差し出せば、秋山はそれを受け取りつかつかと扉の前に立
つ男に声をかける。
秋山のあまりにも他の客とは比較にもならない貧相な格好に、最初は胡乱気な視線を向けて
相手にするのも面倒な顔を綺麗に髪を後ろに撫で付けた黒服の男は見せていたが、何かを秋山
が言って名刺を出すと、突然を納得したように少し待て、といった仕種を見せて扉の向こうに
姿を消した。
「どうなったんですか?」
「待ってろだとさ」
「なんか、すごく怪しまれてましたよね」
「そりゃこんな格好だからな。でも、思ったとおりだったよ」
「思ったとおりって?」
不思議そうな直に、ほら、と秋山は名刺を返す。
裏返しにして。
「あ、なにか書いてある………けど、読めません、秋山さん」
「おまえ、本当に英語駄目だな」
「うう………」
それで大丈夫なのか、今度の試験、と言われてしまうと、正直者の直に平気ですとは、言え
ないのか項垂れるばかりだ。
「特訓だな」
「………お願いします」
秋山はぽん、と落ち込みきっている直の頭に手を置いて、溜息の代わりに答を教えてやった。
「At the place where a secret flower blooms、秘密の花が咲く場所でって意味だ、それは」
「うわあ、なんか意味深な言葉ですね」
直がそう言ったとき、だった。
扉の向こうに消えた男が戻ってきて、秋山に声をかけた。
それを聞いて、一つ頷いてみせると何がなんだか分からず立ち尽くしている直の手を取り、
秋山は男が出てきた扉の脇の、小さな通用口へと向かう。
「秋山さん?」
「こっちから、来いだとさ」
「あ、じゃあ会えるんですね?」
会いに来いと言っていたのは向こうなのだから、それは当然のことだろうに。
嬉しそうな直に秋山は突っ込むことはせず、軽く手を引いた。
「いくぞ」
「はい」
そして通用口の扉を潜って、直は秋山に手を引かれるままに、夜の世界のその向こうへと
踏み出したのだった。
-To be continued-
シリアスです(それだけか)。といいますか、内容が重いです。
言葉的にはそうならないようにしたつもりですけれども。
ちょっとどーなんこれーって感じになりそうなんですが………
思いついちゃったので、思いついちゃったので!!
直ちゃんにも直ちゃんの、秋山さんにも秋山さんの、試練がちょっとあるかなと。
でも、怪我するとか、二人が分かれちゃうとかそういう試練ではありません。
ただ、隠しテーマが暗いんですよねえ………いやいや。
今回、オリキャラ出したのが、すごーく心残りです。
それだけはやるまいと思っていたんですけど………大丈夫でしょうか?
エレーン、というサブタイトルから、もしかしたら凡その方向性が見える方もいるかも?
暗いのはだめだ、とかありましたら、どうぞ突っ込んでください。
この先をアップするかどうか、は、皆様の反応を見て、決めたいかなと思います。
あんまり………の場合は、さくっと消去しますので、ご了承ください。
自爆!
ちなみに、秋山さんが英語とドイツ語堪能、とうのは、彼が心理学をやっていたことから。
心理学はドイツ語での文献が多いので、原典て読んでいたんじゃないかしらと。