御近所物語  
  

 箸の先から、摘んでいた唐揚げがするりと抜け落ちて、まるで狙い定めたか
のように味噌汁の中に落下するのを、ミナトはかぼちゃのマヨネーズ和えを口
に運びながら見届けた。
 今日の味噌汁の具は彼の好きなワカメと豆腐だったが、はたしてそれと唐揚
げの組み合わせはどんな味がするのだろうかと、そんなことを思いつつ、自分
の皿の上の唐揚げに箸を延ばす。
「旅行?」
「そうだってばね」
 その味噌汁と唐揚げとの未知との遭遇を引き起こした当人、ナルトはと言え
ば、そんなことが起きているとはまったく気付かないまま役目を放棄した箸を
握ったまま呆然とし、目の前でもくもくとご飯を口に運んでいる母を見つめて
いた。
「そうだって………いやいや母ちゃん、俺、そんな話、全然聞いた覚えがない
んだけど」
「それはそうだってばね。今、初めて言ったんだから」
「は!?」
 あと数日で、嬉し、楽し(場合によっては悲しいこともある)夏休みがやっ
て来る、
 そんな日の夕飯時、唐突に母から告げられた言葉に、ナルトはとりあえずま
ずは驚いた。
「いきなりなんでそういうことになったんだってばよ? それっぽこと全然言
ってなかったよな?」
 が、すぐに立ち直って状況の把握に乗り出した。
 日帰りなら突然思い立って、というのもあるだろうが、数日に渡る旅行とな
ったら、それなりの準備もあるはずだ。
 もっとも、自分の両親なら不意に世界一周旅行に出ても何の不思議もないと
思ってしまうので、必ずしもそういった世間一般の常識は通用しないと知って
はいるのだが、それにしても思い立った理由やら原因やらはあるはずだった。
「実はね、今日、夕飯の買い物に行った時にね、商店街の福引きをやったら、
クシナが特賞を引き当てたんだよ」
 唐揚げに続いて、玉ねぎのスライスがメインの和風サラダに手をつけつつ、
ナルトの疑問に答えたのは父のミナトだった。
 某製薬会社の開発部門に務めている彼はとても多忙なはずなのだが、大変な
愛妻家であり家族を大切にしているため、定時退社をしなかったことが殆どな
い。
 家族は一緒にご飯を食べないとね、というのがどうやら彼のポリシーらしい
のだが、それでも仕事が遅れたことがないのだから恐るべし、と社内ではもっ
ぱらその奥さん大好き息子大好きっぷりは天下一品と称されている。
「特賞?」
「そう! そうなんだってばね! それがなんと商店街の買い物券五万円と、
二泊三日の旅行だったんだってばね」
「あー、そういえば、特賞、今年は奮発したって、いのが言ってたっけ」





 
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