■オフィールの苑 中篇   
  
 見渡す限りに、見えるものと言えばただただ、人の波。
 いったいこれは何事か、と思ったのは誰だったのか。
 誰もが目にしたものに沈黙を守ったことが、その答だったのかもしれない。
「祭りでもあるってばよ?」
 最初にようやくそう言葉を発したのは、ナルトだった。
 何度か訪れた町で偶然目にした人族の祭りは大小こもごもだったが、規模の大きい
国を上げてのものならば、こんな風にして大勢の人族がそれこそ溢れ返らんばかりの
様子であったことを思い出しているのだろう。
 だが、それにしてもこの人の数は。
 これほどの者たちがいったいどこから降って湧いたのだろうか、と驚きを通り越し
て呆れ返るしかない。
 人族の世界をそれなりに旅してきたナルトでそうなのだから、当然、殆どこれまで
こうした世界とは無縁であったシズネやシノの驚きは、その遥か上をいっていた。
「祭り、と言えばある意味ではそうなんじゃねぇのか? なにしろ奉武の儀ってのは、
聞くところによれば昔、人界が大戦時代に陥っていた頃、光明神パメロと、闇瞑神ラ
ドス、それに六大母神と四闘神衆の四神、戦女神、闘武神、山關神、火炎神に国の繁
栄と勝利を願って闘いを奉納する祭りが起源になっているらしいからな」
「………おまえは、そういう知識をどこから仕入れてくるんだ」
 相変わらず人界についてのシカマルの博識ぶりには驚かされる、とサスケは関心し
ているとも呆れているともつかない声を出した。
「ナルトが、助けたって言うガキから奉武の儀の情報を入手してきた時に、ちょいと
気になってな」
 にい、とシカマルはそんなサスケに笑って見せる。
「この国、ソレイフィールドは今でこそ商業に力を入れているが、それでも、昔っか
ら武力で国土を広げその力で周囲を征服していった時代の名残は消えてない。軍への
金と力の注ぎ具合からいってもそれは明らかだ。そんな国で行われる奉武の儀とやら
が、さてどんなものなのか、と気になったまでさ」
「何か分かったのか?」
「昔は、奉武の儀で優れた戦闘能力を持つ者を集めて軍を増強することを狙っていた
ようだが、最近はそういう面はすっかり薄れているようだな。とはいっても奉武の儀
で優秀っぷりを披露すれば、王族から召し抱えて貰えたり、軍でのそれなりの地位を
与えて仕事を得られるって意味では昔とそう変わらんようだけどよ」
 そして、今ソレイフィールドは王権の交代劇という血生臭い舞台裏を想像させるに
十分な権力闘争の喜劇、あるいは悲劇の舞台の幕が上がろうとしている。
 そしてその舞台に、サスケは自ら望んで登ろうとしているのだ。
 不本意ながらサスケにはそれしか手がなかった。
 どういった役回りを与えられるにせよ、とにかく劇の登場人物の一人とならなくて
は目的を果たせない。

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