■オフィールの苑 後篇   
  
「ナルト」
「なんだってばよ?」
 走り回って喉が渇いたのだろう。
 水差しから硝杯に注いだ水を一気飲みしたナルトが、何かを考えていたサスケに声
をかけられて、なんだろうと振り返る。
「ミチル皇太子の館の周辺でなら、ある程度羽目を外しても対して問題はないかもし
れないが、少しでも他人の目がある所、ミチル皇太子に仕える者ではない連中がいる
場所では注意しろよ。けして、ヒカル、なんて呼び捨てにはするな」
「あ、うん」
 ついさっきサクラにも同じことを言われたが、サスケの言葉には彼女に比べて、も
っと重いものがあった。
「俺たちの目的は、霊熾に炎の力を甦らせることだ。そのためにはどうしてもこの国
の宝物庫に眠っている王錫に近づく機会を手に入れる必要がある。それまでは迂闊な
行動は極力抑えてくれ」
 サスケには炎の一族の長としての果たさなくてはならない役目があり、失敗はけし
て許されない。
「気を付けるってばよ」
 彼の背負っているものの重さが滲んだ言葉に、ナルトは同じくらい真剣な顔で応え
た。
「だからって、あまり構え過ぎなくてもいいんだぞ?」
 その、いつになく神妙な面持ちで考え込んだ様子を見て、サスケが苦笑しながら頭
を軽く叩いてやる。
 気持ちを楽にしてやろうということもあったが、下手にナルトが気を使い過ぎて、
逆にわざとらしさが先行してしまえばそれはそれで不興を買う事にもならないとは限
らないからだ。
 ミチルの対抗馬である二人の王子のうち、少なくとも好戦的だとされるモント家の
ヤコウには、すでに目を付けられている。
 初めてこの城の中に足を踏み入れ朝食をヒカルに御馳走になった時、皇太子のミチ
ルが同席したことにも驚いたが、さらに突然現れて好き放題に喋り出したヤコウには
もっと面喰った。
 少なくとも、ナルトは本当に驚いた。
 どんな小さなことでも難癖を付ける気でいるのがありありと分かる居丈高な態度は、
王族という身分の者にはそう珍しいものではなかったかもしれない。
 しかし、それにしても客人がいると分かっているその前で、言いたい放題であった
様子から、彼が自分にとって相手が有益であるかそうでないかという点でしか人を判
断しないことは窺い知れた。
 要するに、ナルトが何を言ったところで、ヤコウには不興を買う原因にしかならな
いかもしれない、ということだ。
「そういや、サスケが出仕するのに合わせて、ナルト、おまえも城に上がるんだって?」
「ちょっと違うってばよ。俺は、昼間、ヒカルの護衛役を任されたんだってばよ。だ
から、その間はヒカルと一緒に行動することになるだろ。それで、王城に行くことも
あるかもしれないってだけ」




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