■Pandora Fortune   
  
 これ以上ないくらい深い溜息を吐いて、指先で摘むようにして持っているス
プーンをクルクルと回す。
  運ばれてきた時から全く手を付けられていないそれは、すでにかつての姿を
無残なくらいに失っていた。
  美しい曲線を描いていたクリームも、可愛らしいドームだったアイスクリー
ムも、ふんだんに飾り付けられていた色とりどりの果物たちも、今やすべてが
溶けてごちゃまぜになっている。
  多少乱暴な言い方ではあるが、胃に入れば同じことになるのだから味にはそ
う変わりはないはずだと言えなくもないが、しかしながら味を感じるのは舌だ
けではない、と言われることもあるほどで、事実その見た目は到底食欲をそそ
る代物ではない。
(あー、なんかもう、フルーツパフェって呼んじゃいけないものになってるわ
ね)
  しかし、その所有者である人物は自分の目の前で起こっていることにまるで
気づいていなかった。 
 視線はしっかりとその真上に落ちているのに、間違いなく見えているはずの
それが見えていないのだろう。
 意識はどこへ旅立っているのやら。
(このお店のパフェ、超が付くほどの人気ので、値段もするけどそれに見合う
だけの一品だって言われてるのに………あんなにしちゃって、お店の人に申し
訳ないわ)
 せっかく工夫を凝らして作り上げたものを、一口も食べないまま跡形もない
状態になるまで放置されていたとあっては、流石に作り手もいい気持ちはしな
いだろう。
(うーん。確かにこっちはお客なんだから、頼んだものをどうしようと勝手は
勝手なんだけど、流石にこれはねえ………)
 自分たちのテーブルをさりげなくみている店長らしき人物の視線を背中に感
じて、ごめんなさい、と心の中で謝るしかない。
 そんなサクラの気持ちを知ってか知らずか、テーブルの向こう側に座る問題
のパフェ(であったもの)と対峙している人物は、もうサクラは何度目か途中
で数えるのを止めてしまったので正確なところはわからないのだが、両手では
足りないくらいには吐いているはずの溜息をさらに一回増やして、またクルリ
とスプーンを回した。
  それによって、クリームの頂点を飾っていた苺が、ついに力尽きて見事にク
リームの海に沈んで姿を消してしまう。
「ちょっと、さっきから何なの?」
「ふえ? なんだってばよ、サクラちゃん」
  苺が哀れにもクリームの中に消える様子を一部始終目撃してしまったサクラ
が、ついにここで声を発した。
  ちなみに、彼女の前には綺麗に中身がなくなった背の高い縁が独特波打つ曲
線を象ったガラスの器がある。
  苺がクリームの海に沈んで姿を消したガラスの器と全く同じ姿形をしている
ことから、おそらく最初は両者の前には同じように盛り付けられた店自慢のパ
フェが在ったのだろう。
  サクラのものはきちんと本来収まるべきところに収まったというわけだ。
「何が在ったか知らないけど、延々と重たい溜息ばっかり吐いて、こっちまで
気が滅入るじゃない」
「へ? あ、えっとゴメン、サクラちゃん。今、なんか言ったってばよ?」
 案の定、意識は完全に何処へ飛んでいたようだ。
 もしかしたら、この店に入って注文をしたことさえも覚えていないかもしれ
ないと思わせるナルトに、今度はサクラの方が溜息を吐きたい気持ちになる。
「ええ、まあね。でも取り合えず、意識が戻って来たところで、それ、なんと
かした方がいいんじゃない? ちょっともう手遅れかもしれないけど、せっか
くの美味しいパフェが不味くなってるわよ。私は食べ終わってるからいいけど」
「それ?」
 なんのことだろう、と思いつつもサクラの指が指し示すものへとナルトはナ
ルトは視線を向けた。
「あああああ!」






 
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