■シェオルの碣  
  
 果てしなく続く、それは荒野だった。
 地平線の果てまで、ただひたすらに何もない大地。
 ごく僅かながらも森のようにも見える木々の群れは、遠い昔に時を止めて沈
黙を守り、僅かばかりの残滓を残してただそこに立ち尽くすばかりで、生繁る
緑もなく、まして、色を齎す花もない。
 しかしそれさえもまだ、赤黒い砂塵に覆われた大地に比べれば幾らかはまし
なのだろう。
 静かだった。
 静かすぎて耳が痛いほどだった。
 小鳥の声などなく。
 風の音さえなく。
 沈黙の誓いを立てた黙祀殿の司祭のように、声を出すことを恐れているかの
ようだ。
 なにもない。
 そう、何一つない。
 この場にこうして立っている、自分の存在さえも打ち消されてしまったかの
ような、そんな錯覚を起こさせる静寂。
 己を律するものを強く意識していなければ、気づいた時には本当にこの世界
を満たす空気の一部になって、自分の姿形を失っているのではないか、と。
「此処が、そうなんだ」
「ああ」
  茫然とした表情で、呟くようにこぼれ落ちたナルトの言葉に、サスケは静か
に応える。
 大きく見開かれたナルトの目は、じっとその茫漠にして静寂な世界に見入っ
たまま動くことを完全に忘れ、次の言葉が出てくるまで暫くの時間を要した。
「此処が………人外魔境?」
「驚いたか?」
「………うん」
 少しだけ躊躇ったように間をおいてナルトは素直に頷いたが、それは無意識
の行動だったのかもしれない。
 それだけ衝撃を受けた、ということなのだろう。
 サスケの表情が、少しだけ苦笑するようなものになる。
「こういう場所だと、教えておいただろう」
「そうだけど、そうなんだけど、まさか」
  まさかこんなにも荒れ果てた世界だとは、思っていなかった。
  そう、ナルトが飲み込んだ言葉の続きが、サスケには聞こえる。
  目の前に広がる光景へ、その何処かに何かしら見付けられないだろうか、と
でも言うように食い入るような視線を向けるナルトの横顔を見て、サスケも自
分の目に同じものを映した。
  そこには、死の匂いがした。
 いや、その表現も少し違う。
 何処までも荒れ果て、何処までも痩せ細り、何一つとして生きているものの
気配はない、ひたすらに命の匂いのしない場所だという言葉が何より似つかわ
しいとしても。
  ここは、死に満たされた世界ではない。
  終の国ではない。
  それは当然だ。
 なぜなら、ここは。






 
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