■邂逅(わくらば)   
  

 普段から、騒々しいとまでは言わないが静寂とは無縁な火影塔が、その日は何時に
もまして行き交う忍の数も多く騒然としていた。
 特に情報部の周辺は一段と際立っていて、非番の者たちまで駆り出され忙しく動き
回っている様は、何か重大な問題が木の葉の里に起こっているのではないかと誰でも
思ったことだろう。

「奈良上忍、これはどうしましょう」
「どれだ? ああ、それはすぐに担当に持って行ってくれ。それから、その足で紅セ
ンセとこに行って、あっちはどうなってるか確認して来てもらえるか」
「分かりました」
「申し訳ありません、奈良上忍、こちらは」
「ああ」

 情報部の副室長を務めているシカマルは、渡された書類に素早く目を通す。
 彼の返事を待つ中忍の後ろでは、すでに次に彼の判断を仰ごうと待ち構えている者
が数人列をなしていた。

「お忙しそうですね、奈良上忍」
「仕方ないわよ。サクラが居ないんだもの」

 情報部の詰め所は、その性質上、不用意に関係者以外の者が立ちいることのないよ
うに他の部署からは隔離された場所に置かれている。
 唯一その近くにあるのは、サクラの治療室を兼ねた執務室と、それを挟んだ形で設
置された医療部門の専用研究室だけだ。
 以前は情報部のみが火影塔の最上階より一つ下に置かれていたが、サクラが情報部
の室長であると同時に医療班を統括する立場にあることを踏まえて、両者を行き来す
る彼女の負担を軽減する目的でそんな形になったのである。

「サクラ様が木の葉を出られてからもう随分になりますから、その間ずっと奈良上忍
が情報部をまとめているんですもの、大変ですね。倒れたりなさらないといいんです
けれど」
「そうねえ。まあ、大丈夫じゃない? あれでけっこうあいつも頑丈に出来てるし、
適当に息抜きしてるみたいだし。それより、私の方がいいとばっちりよ」

 アカリといのは、情報部の部屋の中で次々と指示を出しているシカマルを見て、そ
れぞれ意味合いの違う溜息を吐いた。

「疲れの取れる薬を調合しましょうか?」
「ああ、まだ大丈夫よ。本当に辛くなったらお願いするわ」
「そうですか。それで、私になんの御用でしょうか、山中上忍」
「ああ、そうだったわね」

 情報部に無関係のアカリが、情報部の手伝いに回されて忙しく動き回っていたいの
に声を掛けられたのは、彼女が医療部の研究室に顔を出した時だった。
 あまり面識のない相手から呼び止められて、少なからずアカリは驚いた。
 いったい何の用が自分にあるのかしら、と訝しむアカリに、きょろきょろと周囲の
様子を確かめた後で、いのは彼女の耳許へ口をそっと近付ける。
 そして小声で口早に話したいのの言葉に、どうしたのかしら、という疑問はすぐに
解けた。

「サスケ君の様子なんだけど、どうなの?」

 筆頭補佐官として火影に次ぐ木の葉の里のナンバツーと誰もが認めるサスケが倒れた、
という事実は表向きには一切公表されていない。
 それどころか、火影塔の火影の執務室には、朝からずっとサスケの姿があった。
 といっても、それは本人ではない。

「執務室にいるサスケ君は、ナルトの影分身なんでしょ?」
「どうして、それを」

 誰も知らないことのはずだ。
 彼が今も意識が戻らずにいる事実を知っているのは、ナルトを含め本当にごく限られ
た者だけのはずなのにと、アカリは驚きを隠せない。

「私とシカマルは下忍時代にスリーマンセルを組んで以来の腐れ縁なのよね」
 そのアカリに、ふふ、といのが笑ってみせた。







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