■再録本「煙霞」(華胥)   
  


 木の葉の里の朝は、日の出と共にその殆どが動き出す。
 商店街などの一般的な生活基盤についてはまだ静けさを保っていたけれども、忍た
ちが集う火影の館の周辺はその時点で既に一日が始まっていた。
 詰め所は基本が二十四時間態勢で複数の上忍か特別上忍ないし中忍が緊急時に備え
て待機しているし、仕事の多い部署や、火急の用件を任されている部署、あるいは担
当官も自宅に戻ることなく職場に残って仕事をこなしている為、常に誰か彼か少なか
らぬ人々が火影の館、もしくはそれに隣接してある火影塔に残っているのが普通なの
だ。
 それ故、寧ろ朝が来たから動き出した、と言うよりも、夜の間も眠らずに動いてい
た、と言う方が正しいのかもしれない。
 しかし、そうした部下たちの働きのお陰かどうか、は甚だ今ひとつ定かではないけ
れども、里の頂点に立つ火影自身が残務をこなすために執務室に泊まり込んだことは、
最近になってからは実はあまりない。
 先代の火影からその責務を譲り受けたばかりの頃は、慣れないことが連続する毎日
で、国内外からの風当たりやらなにやらとにかく忙しく、残業をするしないではなく
最早朝から晩まで一日の全てが火影としての仕事の連続だったけれども、それも今と
なっては昔のこと。
 勿論、事情や状況によっては里長としての務めを果たすために必要とされる時には
数日だろうと泊り込んで事態の収拾と対応にそれこそ寝る間も惜しんで邁進したけれ
ども、近頃それは極めて例外的なことだった。

「おお、今日もいい天気だってばよ!」

 ガラリと玄関を開けたナルトは、嬉しそうに顔を綻ばせて腕を翳しながら空を見上
げ、そこに広がった青空とそれを背景にして耀く眩い太陽に笑顔を見せる。

「この時期には珍しくもないだろう」

 一方で、情緒的な感動を実際にまったく受けていないかどうかは本人のみの知る所
であるけれども、端から見る分には本当にそうしたものとは対極にいるとしか思えな
いほど無表情な面持ちを見せたサスケは、相変わらずな言葉を口にした。

「気分のいい朝なんだから、横槍入れるなってばよ」

 こいつは、とナルトは思わずその先に続く不満を塗りたくった言葉を言い放ちかけ
て、ぐっとそれを堪える。
 今に始まったことでは、ないのだ。
 このうちはサスケと言う男は、著しく情緒面において欠落した部分が多い、と、思
わざるを得ないことがこれまで幾多の場面であったことだろうか。

(サスケって………本当にどうしようもねーよなあ)

 ナルトが念願叶って火影となった時、その傍らに立ってありとあらゆる場面でその
優れた才能を遺憾なく発揮し、力を貸して助けとなるべく筆頭補佐官と言う立場に収
まったサスケは、確かにその通りに今日まで卒なく、いや完璧と言っても過言ではな
い働きぶりを見せてきた。
 それは補佐官、と言う役目に留まらず、ナルトの恋人と言う立場から火影としてで
はない、ナルトと言う一個人の心の拠り所、と言う意味をも含めて、である。
 多分に思い込みの激しいことについてはナルトもサスケもいい勝負ではあるのだが、
相手の為に自分は何をすべきであるのかと言う点において、冷静なる判断の元に動け
ると言う意味ではサスケに軍配が上がるだろう。
 ナルトの場合は心の向かうところへ迷わず突き進む傾向があるので、時に周囲から
は危ぶまれることも多い。
 それを可能な限りナルトの思うようにさせ、しかし限度と言うものをもって彼を制
止することが補佐官のナルトやサクラの重要な役目になっていることは、彼らに近し
い場所にいる者たちにとっての日常だった。
 それぞれに色々思うところはあるけれども、それでもナルトがサスケにはとても感
謝してもし足りないほど、本当に色々と世話になっていることは確かなのだ。
 それについてはナルト自身も否定はしないし、本当にありがたいと思っている。
 しかし、問題はそこではない。


 







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