蒲月の祓
A Little bird told me
サスケが入れてくれるお茶が、ナルトは好きだった。
一人で暮らしていた頃には一度だってお茶なんて飲んだことはなかったけ
れど、サスケの家では良く飲む。
と言うか、三食とる時には必ずお茶を飲むのがサスケの習慣らしく、それ
に付き合う形でいつのまにかそれが普通になっていたような気がする。
「ほら」
「サンキュ」
ほこほこと湯気の立つ湯呑みを受け取って、ナルトはそれをふうふうと冷
ますために吹いた。
明るい色のちょっと大きめの湯呑みは、ナルトがサスケの家で使う食器を
揃える時に一緒に選んだものだ。
その時、なぜかもう自分の分はあるはずのサスケが揃いの湯呑みを買った
ので、今サスケが手にしているものはナルトと色違いのまったく同じデザイ
ンと形をしている。
「なあ」
「なんだ?」
少しだけ冷えたお茶を一口啜って、ナルトはサスケを見た。
「………や、なんでも」
相変わらず整った顔には感情らしきものもない、その横顔を見たら、ナル
トの言葉になりかけた音は綺麗に消えてしまう。
別に聞いてどうと言うわけでもないし。
(こいつって、そゆこと聞こうとか、してきたこと今まで一度もねーもんな)
色んな疑問が渦巻いても、サスケはナルトと違いその殆どを自己処理して
しまう。
今すぐ答えを得られなくても、いつか時がきて知ることが必要になったの
なら自然と答えが分かるだろうと、そんな風に考えている所があるのだ。
それが元来のものであるのか、そう考えようとしているものなのかは、分
からないけれど。
(俺がどうして子供の日が嫌いって言ったか、その理由とか、分かってンの
かなあ)
薄々感じているのかもしれない。
ナルトが里の大人に嫌われているのは周知の事実であるし、それにあの時、
手を繋ぐと言う普段なら絶対しないようなことをしてくれたのも、もしかし
たら分かっているから、だったのかもしれない。
「ナルト」
「はい?」
「またボーっとしてんじゃねーよ、ったく。ほら、おまえの分だ、食べろよ」
「え? あれ、柏餅?」
差し出されたのは、白い団子生地の回りに大きな緑の葉を巻いた見覚えの
ある食べ物だった。
吃驚してふと視線をやると、さっき行った店の名前が書かれた包みが綺麗
に畳んで卓袱台の足の脇に置かれているのが目に入る。
「もしかして、これ買いに行ったってばよ?」
「ああ。あそこの餡子は美味いんだ」
「ふうん、そーなんだ」
多分、間違いなく、サスケはナルトの為にあの店にわざわざ足を運んだの
だろう。
一人だったのなら絶対にそんな無駄なことをする筈がないから。
「こっちがこし餡で、こっちはつぶ餡だから、間違えるなよ」
「わかったってばよ」
言って、早速ナルトは柏餅にかぶりついた。
ほんわりと、ほのかな甘さのあんこが口の中に広がる。
「美味い!」
「だろ」
はぐはぐと食べる速度の増したナルトに、サスケは誰もとりゃしないんだ
から落ち着いて食べろよ、と言いながらお茶を注ぎたしてやった。
「ガキ」
「うるせーってばよ!」
そう言いながらも、ナルトの顔は嬉しげに綻んでいて。
サスケはそっと口の端に笑みを乗せた。
そうとは分からないほど、かすかに。
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