蒲月の祓
                                     Little Garden             「気持ち良かったってばよ〜」  ほかほかの、少しばかり熱い身体を手で扇ぎながら、ナルトは布団の上に ぺたりと尻を付き足を伸ばした。 「ほら、そんな格好でいると風邪引くぞ。まだ朝晩は冷え込むこともあるん だ」 「へーい」  言う割には、動こうともしない。  それどころか、そのままゴロンと布団に身体を横にするとゴロゴロ転がり、 座っているサスケの足元までくると仰向きになってじいっとその顔を見上げ た。 「ナルト」 「サスケってさあ」 「なんだ」 「すっげえ器用だけど、すっげえ不器用だな」  いきなり何を言うのだと、サスケの眉間に皺が寄る。 「サクラちゃんがそー言ってた」  その名前に、サスケの眉間の皺がますます増えた。  スリーマンセルを組んで行動をともにする内に、だんだんと内なるものを 表に出すようになったサクラの容赦ない言葉は、何につけ素直に感情を出せ などしないサスケにとって苦手なものなのだ。  「おまえは、その意味分かってんのか」 「うーん………なんとなく」  ナルトはニコッと笑っていきなり起き上がると、サスケにぐいっと顔を近 づける。 「俺にさ、子供の日じゃない『端午の節句』ってのを楽しませようとして、 色々してくれたサスケは、すげえあったまいいし、器用だけどさ」  そのまま笑う顔に揶揄うような色が混じった。 「俺が風呂に一緒に入ろうって言った時のサスケは、すげー不器用だった」  サクラが言いたかったこととは、微妙にずれているような気がするナルト の解釈に、突っ込みをいれるべきかどうかサスケは悩む。  酷く満足そうに笑っているナルトのそれもまた、ある意味で的を得ていた からだ。  感情をとことん表に出さぬことには長けているサスケも、相手がナルトと なっては勝手が違う。  ただ、隠すのは難しくても素直に出すこともまた難しいので、結局サスケ は混乱して行動が乱されるのだ。  そんなことは、ナルトにしかできない。  だから最後には溜息一つで、諦めるのだ。 「なあ、サスケ」 「なんだよ」 「ブッチョーヅラすんのやめろってば」 「別にしてねえよ。これが地顔だ」 「嘘だってばよ」  むう、と真似をするように眉を寄せて、ナルトはむにっとばかりにサスケ の頬を思いきり両手で摘んで横に引き伸ばす。  何すんだ! と怒鳴る前にナルトの手は離れ、代わりに鼻が触れそうな所 まで顔を寄せてきた。 「俺知ってるもんね。サスケってば寝てる時はちゃんと普通の顔してるって ばよ。時々笑ったりしてるし」 「嘘吐け」 「嘘じゃねーもん。自分の寝顔なんて見たことないくせに」  ベーっと舌を出して、ナルトはそのままサスケの腰に抱きついた。 「サスケ、やっぱり不器用だってばよ」 「てめーに言われたくねえ」  ボソッとこぼしながらも、そっと回した手でそんなナルトをサスケも抱き 返す。  その、どことなくぎこちない動き。  自覚があるのかないのか、ナルトは思いきり笑い出し、そして言い放った。 「不器用ったらブキヨー!」  サスケの眉間の皺が、また一本増えたように見えたのは、気のせいだった のだろうか?

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