「ハウル、起きてる?」 コンコン、とノックをして扉を開けば、部屋の主はベッドの上に座り込んで本を読んでいた。 呪いが解けて元の姿に戻り、新しいお城ので暮らすようになってから一つ発見したこと。 それは、ハウルが思いのほか読書家である、と言うこと。 城のあちこちに山と積まれていた本の全てにハウルが目を通していると聞いて、どれほどソフィーは 驚いたかしれなかった。 一冊読むだけでも一日では済みそうもない分厚い本ばかりだというのに、これを読み切るなんて、自 分だったら何年、いや何十年かかることか。 (想像もつかないわ) ソフィーも本は好きだが、これはそのレベルではない。 その殆どが魔法に関わる本であるのは流石は魔法使いと言うところだったけれど、時々まったく無関 係のどうしてこんな本がここに? と思わずにはいられない本が混じっているのが、またハウルらしく もあった。 「どうしたのソフィー」 もう寝ている時刻に自分の寝室を訪ねてきたソフィーに、ハウルは本から目を離して驚いた顔を見せ た。 一応、恋人同士の二人なのだが、寝室は現在も別だ。 結婚するまでのけじめ、と言うソフィーのこだわりからそうなっているのだが、ハウルは特にそれに 反意を見せることなく、新しい城には新しくソフィーの為の部屋も作ってあった。 遠からず同じ部屋で寝起きすることになるだろうにねえ、若いくせに固いねえ、とはおばあちゃんの 呟きだ。 「ちょっと、いいかしら」 「うん。中に入って。そこじゃ寒いだろう?」 冬の夜に夜着の上に肩掛けを羽織っただけの恰好では風邪を引くよ、と促されてソフィーは部屋の中 に入ると扉を閉めてハウルが座っているベッドの端に腰を下ろした。 「寒くない?」 「大丈夫よ、暖かいもの。そう言えば前から不思議に思っていたのだけれど、これってカルシファーの 力なの? お城の中はどこも暖かいのって」 「そうだよ。僕とカルシファーのね。以前はそんなことしてなかったけど、今は空を飛んでるからやっ ぱり寒くなるしね」 本人の前で言うと怒られそうだけれど、マダムには寒さが堪えると思うし、とハウルが言えば、ソフ ィーは思わず悪いと思いながらも一緒になって笑ってしまう。 「魔法って不思議ね」 「僕は子供の頃からそれが普通にあったから不思議でもなんでもないけれど、ソフィーにはそうかもし れないね」 「ハウルってそんなに小さい頃から魔法が使えたの?」 あの、秘密の花園で出会った過去のハウルよりも小さい頃から? 「使えたよ。マルクルより小さい頃からね」 「まあ。それじゃあ魔法が当たり前になっても当然ね」 まるで呼吸をするのと同じように魔法を使ってみせるハウルに今でも時々驚かされるが、ハウルにし てみれば本当に呼吸をするのと同じなのかもしれない。 ソフィーは改めて自分を大切だと言ってくれる魔法使いが、とんでもなく力のある魔法使いであるこ とを思い知らされてしまった。 「そでれ、何か用があったんじゃないの? ソフィー」 「ああ、ええ、そうなの。皆の前だとちょっとハウルだけなんて悪い気がして渡せなかったんだけれど、 これ」 ハウルに促されて来訪の目的を思い出したソフィーは、夜着のポケットかた包みを一つ取り出し、そ っと差し出す。 「僕に?」 それはとても小さな包みだったが、ハウルは受け取ったものに目を輝かせた。 ハウルはソフィーから貰ったものなら紙切れだって宝物にしちゃうに決まってるんだ、とカルシファ ーが呆れた様に言うそれが、冗談ではなく事実だと言うことは城の住人なら誰でも分かっている。 「開けてもいいかな?」 まるで子供のように訊ねてくるハウルに、ソフィーは頷いて応えた。 それを見たハウルは、早速丁寧に包装された包みを器用な細い指先で開いていく。 そして中に納められていたものをそっと取り出した。 「………これは、栞?」 「ええ、そうよ」 透明なセルロイドの中に押し花が納められていて、重厚でしっかりとした皮で縁取られた、シンプル ながらもかなり手の込んだ手作りと分かる、栞が三種類。 一つは白詰草の花の押し花、もう一つは四葉のクローバー、そして最後の一つはその両方が納められ ている。 「ソフィーがこれを探して、押し花にしてくれたの?」 「そうよ。あのお花畑に白詰草が群生してる場所があったの。もしかしたら、と思って探してみたら、 見つけられたから」 「大変だったんじゃない? 一つだけじゃなくて三つもだ」 「ちょっとだけね。でも、なんだか宝物探しみたいで楽しかったわ」 ふふ、と笑って、ソフィーは少しだけ真剣な面持ちになった。 「貰ってくれる?」 「もちろんさ! ありがとうソフィー。大事に使わせて貰うよ」 こんなものいらない、などとハウルが言う人ではないと分かっていてもやはり不安のあったソフィー は、満面の笑顔え応えてくれたハウルに、ほっと胸を撫で下ろしながらにっこりと微笑んだ。 喜んでもらえたのなら、四葉のクローバー探しなど露ほども苦労とは思えない。 そんなソフィーの気持ちを分かっていたのかどうか、ハウルは嬉しそうに栞をしばし見つめていたが、 ふとその視線を上げてソフィーを見た。 「で、どうして栞を作ろうと思ったの?」 「………それはね」 ハウルの問いに、ソフィーは少しだけ苦笑するように笑みの色を変える。 「それがあったら、本にハウルを独占されないかも、と思ったの」 「え?」 ソフィーの言わんとするところが掴めず、ハウルの顔にきょとんとした表情が浮かんだ。 実年齢と精神年齢が今ひとつ完全には噛み合っていないだけに、そんな時のハウルはとても幼く見え る。 なんだか抱き締めてあげたくなっちゃうわ、と思いながら、ソフィーは足りない言葉を補ってハウル の問いに対して改めて答えを返すべくゆっくりと話し始めた。
タイトルの隠れた意味は次こそ明らかに! バレンタインは本来チョコをあげる日ではなくて 恋人同士や友人同士などで、互いに大切に思っている相手に贈り物をする日です。 ことの起こりは逆に男性から………だったようですが。 チョコを女性から男性にあげて告白すると言う風習はあくまでも日本のもの。 (あともう一ヶ国あったはずです)お菓子業界の戦略によって広まった行事(笑) キリスト教徒の国ではない日本では、バレンタインもクリスマスも とりあえずは賑やかに楽しめる行事なのでしょう。 24日にクリスマスを祝って年末にお寺へ鐘を衝きに行き、年が明けたら神社へ御参り。 凄いごちゃ混ぜな世界! 以上、旧ハウルサイトに掲載したときのコメントでした。 2005年2月18日作成。 back